1月11日(土)東京・国立競技場 早大45―明大35



新装なった国立競技場で宿命のライバルがファイナルで激突。伝統の早明対決に5万7000人の観客で埋まった。前回王者で連覇をめざす明治が総合力で優り、先月の定期戦に続いて早稲田を退ける見方が強かった。しかし、予想と逆になるのがこのカード。早大ファンが歓喜し、明治びいきは落胆する結果になった。


昨年12月の定期戦で完敗した早大にとって失うものはなく、キックオフと同時にスイッチを入れてきた。攻守ともに出足が鋭く気迫に満ちている。一方、明大は2年連続日本一に向けて充実した布陣でチーム力を上げ、自信を持って試合に臨んだはずだった。しかし開始8分に、早大がペナルティゴールで3-0と先制。12分にはキーマン・CTB中野がオフロードパスを決め、NO8の丸尾がタッチラインを駆け抜けてトライ。ゴールも決まり10-0とリードを広げると、明大選手のプレーにミスが増える。早大は23分頃にSO岸岡が二度に渡ってドロップゴールを試みて明大の焦りを誘う心理戦に出るなど、試合巧者ぶりを発揮していく。



20分過ぎに明大は敵陣深く攻め込み、HB飯沼からのパスを受けたFW箸本がアングルを変えて斬り込んできたがタイミングが合わずボールは転々。これを早大が拾ってターンオーバーした後、キック合戦になった。早大は26分、明大陣10m付近でのラインアウトから展開、CTB長田が内に切れ込んであっさりトライを決める。ゴール成功で17-0。明大は完全にパニックに陥る。



明大は早大のCTB中野を過度に意識するあまり、中野の周辺にいるバックスを走らせてしまった。サイズのある中野の突進をダブルタックルで阻止すれば、その分ディフェンスに人数を割くことになり、防御が手薄になる。タックルが高くなるのは、ボールを奪いに行っているからとも思われた。相手の下半身を目がけるのがセオリーとわかっていながら腕がボールに行くのは、得点差が生んだ焦り以外の何物でもない。


経験豊富な早大ハーフ団は自慢のバックス陣にボールを安定供給してタッチライン際を何度も走らせ、そのたびに確実に点を取っていった。明大も中野を「おとり」に使った早大の戦略は織り込み済みだったはずだが、平常心を欠いて的確な状況判断ができなかった。明大SO山沢は対面の岸岡に厳しい守備を食らい、ゲームメイクに苦しむ。32分には明大FWを粉砕するラインアウトモールで一気にゴールになだれ込み、39分にはFL相良が明大の甘いタックルを交わしてポスト下に易々と持ち込んで連続トライ。31-0として前半を終え、勝敗の帰趨が決した。後半は捨て身で当たる明大が、攻め疲れた早大に5トライを浴びせたが、2本返されてノーサイド。11年振りの大学チャンピオンの座に就いた。


早大は明大をよく研究していた。運動量の多いLOの箸本、変幻自在のステップを踏んで突進力のあるWTB山崎の2人を執拗にダブルタックルして縦突進を食い止める一方、キーマン中野を中心にしたバックスを斉藤・岸岡のハーフ団が左右に振って明大防御網の穴を見つけていった。


どんなスポーツも、先制したほうが高い確率で勝利する。点差を付けることで心理的に優位に立てるからだ。逆転するのは簡単なことではない。追いかけるチームや選手は「追い付く」ことをめざしてプレーするが、最終的には「勝ち越す」ことを求める。身体をぶつけ合うコンタクトプレーが持ち味のラグビーは、最も選手編成数が多い15人の球技であり、番狂わせが起きにくいスポーツのひとつと言われる。これが野球ならエースが1人いるだけで勝率はぐんと上がる。


ラグビーは肉弾戦で消耗は激しく、なおかつ走り抜いてボールをグランディングしなければならない。ひとりふたり屈強な選手がいても勝敗に直結するわけではない。それを利用する戦術がなければ、相手のスコアを上回ることはできないのだ。肉弾戦だから、気迫の違いも試合に影響する。この試合はその戦術と気迫の違いがモロに出た。定期戦での勝利で「受けてしまった」明大と、開き直ることができた早大のメンタルの差が前半に表れた。



新国立競技場だが、評判がよろしくない。木材を使った斬新な設計が話題になったが、それが妙に安普請の佇まいを見せている。座席は相変わらず狭く、トイレは長蛇の列にもかかわらず、用を終えて専用出口を通ると、空いているところがあった。占有スペースをケチっているためなのか、迷路のように入り組んだトイレである。


グランドはインゴールが狭く、戦術にも影響する。観衆の数を誇るのではなく、好試合をゆとりある座席で見たいと願う人は少なくない。ラグビー人気はまだまだ一過性のもの。新たな専用技球場の建設が待たれるところだが、とりあえずは秩父宮をホームグランドにすべきではないか。(三)